陰部肛門皮膚頭皮

痒いところというのは、場所により、人様をはばかる恥ずかしい部分、のことが往々にしてあるようで、ま、わたしのようなオヤジは全然気にしないが、ご婦人やデリカシーの存在する紳士なんてお方にとっては、大いなる悩みになってしまうようだ。なので、そういう場所をデリケートゾーンなんてめかして呼んでいるメーカーもあるようだ。なんだかかえって恥ずかしい。ズバリ『あそこ』でいいと思うが。



カラダのかゆみいろいろ

 眼の結膜炎がようやく治ってきてほっとしたころ、こんどは股間を痒みが襲いだした。
 ここのところ気温は上がったり下がったりをくり返しているが、桜は散ったというものの本格的に夏のような暑い日が続いたわけでもない。したがって汗疹ができるほど、股間を過度の湿潤状態にさらし続けた覚えもない。おまけに、一日たりとも風呂を使わない日はなかった。つまり、清潔な状態が続いているはずなのだ。

 三十数年まえ、私は田虫持ちだった。高校の漕艇部でフネを漕いでいたころだ。「インキンタムシ」という言葉は、その少し前「少年マガジン」に連載されていた松本零士の『男おいどん』というマンガで広く知られていたのだけれど、当時の若者にとっても、やはり「恥ずかしい」ものであり、おおっぴらに自分がそれに罹っていると公表する輩は少なかった。
 マンガの中には「特効薬」として『マセトロ−ション』という薬名が載っていた。それで密かに薬屋にいったのだけれど、『マセトロ−ション』という薬はなく、『マセトローブ』というのがあったのを覚えている。それを買ったのか、といえば買っていない。恥ずかしながらと薬屋のオヤジに打ち明けてみると…
 「あんたのは、インキンやなくて、田虫やで。どっちかというたら、水虫に近いほうですわ。あそこのまわりに堤防みたいなんが囲みまっしゃろ。それがだんだん広がって来よる。内側の皮膚は黒ずむ。その堤防へんがタマらんほど痒い、な?それやったら、こっち!」
 わたされた軟膏は『シッカニン』というチューブ入りで、これは実によく効いた。
 病気が病気だけにもちろん、薬屋に行くまでに、家庭内というより自分の部屋内でできるかぎりの治療を試みてみたのはいうまでもない。「かゆみ止め」と銘打たれた常備薬を順番に試してみた。「ムヒ」「キンカン」等だ。
 経験者のかたはよくご存知と思うが、あの痒みは蚊や虫に刺されたものとは全く違う。なにせ、掻くとかなり気持ちが良いのだ!やめられないとまらない快感がある。そんなもんで掻き続けていると、当然皮膚は破れ、痒みは痛みに変わる。その状態になって「薬、薬!」となるものだから、そこにつける「キンカン」はかなりキツいものがある。つまり、激シミる、というわけだ。フーフーと息を吹きかけ痛みを紛らす。この一連の行為で、何となく治療ができたような気になるのだが、特別、白蘚菌に効果があるわけではないので根本的には治りはしない。
 さて、『シッカニン』をつけていると、田虫の堤防はどんどん崩壊し、畦くらいになってくる。そうして痒みも治ってくるのだが、そうなってみると、少し惜しい気持ちになってくるのだ。なぜか。あの『掻く愉しみ』との完全惜別である。ある意味『快感』を伴う行為との別れである。そうして、別れきれない未練たらしい輩は「田虫持ち」という人生を歩み始めるのだ。

 昔のはなしはこれくらいにしておき、さて、今だ。
 確かに痒みの質は田虫に似ている。場所もソコなのだが、何となくみかけが違う。どちらかというと蕁麻疹・湿疹に近いように見える。堤防が形成されない。首をかしげながら昔同様、家庭内常備薬でとりあえずの治療を試みることにした。が、全く効果がない。そして痒い部分はどんどん拡大している。
 ここらが潮時エイ!と薬屋に立ち寄った。
 薬屋のおばさんに言う。キッパリと。そこは私ももはやオッサンである。
 「田虫の軟膏をください!」
 隣にいた若い女の薬剤師は、ピクリと反応し私の顔をあらためたが、うろたえずにすんだ。そこは私ももはやオッサンである。
 「軟膏が宜しいんですか…ええと」
 ガラスケースの底のあたりから2種類の箱をとりだして、
 「いま、この二つだけになります」と私の顔を見た。
 はたしてそこに、かの『シッカニン』はなかった。出されたのはどちらも広告で良く聞き慣れている「メジャー水虫薬」の商品名だった。
 しばしパッケージの効能と成分を比較し検討したが、結局良くわからんので安いほうに決めて購入した。それでも千八百円!ですぞ、15gで。
 家に帰り能書を読む。
 抗白癬菌作用アリと…良し。優れた鎮痒効果アリ…これも良し。
 効能…水虫、いんきんたむし、ぜにたむし。
 意義あり!私は田虫の特効薬が欲しいのだ。これでは水虫のついでではないか。効能の一番最初はたむし、であって欲しかったのだ。
 そして使用上の注意の一部を読んで驚いた。
 [次の部位には使用しないでください](1) …,…,…,陰のう!,外陰部!、
なんじゃこりゃあ!やはり足の「水虫」の軟膏ではないか。ああ『シッカニン』は何処へ…。
 怒りつつも能書の禁を破り、そそくさと患部に塗布してみたわけだが…。

 これが全く効果がない。そうして、痒い部分は陰部のみでなく、上腕、ワキ腹、膝の裏側、足の甲に飛び火し、ポツポツと赤い湿疹のようなものを生じている。軟膏の効能はともあれ、これはどうやら「田虫」ではないようだ。そうだとすると、では何なのか?
 私はなんとなくアレルギー症状ではないかと感じだした。ちまたに猛威をふるう花粉症。くしゃみや涙は出ないけれど、その徴候の第一段階が痒みとして、私の体質にあらわれだしたのではないのか。となれば、五月の中頃には花粉の終焉とともにおさまるはずだが…。
 股間の痒みは、いまだ続いている。あの田虫と同じ『掻く愉しみ』を伴う痒みだ。放置してそうそう命にかかわることでもあるまい。ま、ここは花粉アレルギーが原因との仮説を検証するために、五月中旬まで放っておくことにしよう。
 あと一月は、掻かせていただきますです。