表あってこその裏なんですが

2003年大晦日、趣味や媒体の多様化で、もはやへろへろになりつつあるNHK紅白歌合戦のウラに民放各局はこぞって格闘技イベントをぶつけてきた。小さなパイを食い合ったうえ、スポンサーのCM放映時が他局試合への格好のチャンネル切り替えタイミングになることがわからんのかなあ。

格闘技イベント、もはや食傷しました

 あたしは結局、忙しくてあまり観てはいない。ただ、大晦日から三が日は実家でゴロゴロしていたので、そっちではテレビをぼんやり観ていた。少々古い話になるが、大晦日の地上波格闘技番組の三つ巴放送は、よくもまあ、あんなムダなことが出きるもんだと思った。いくらデジタル・衛星多局化が進んできたとはいえ、おおかたの視聴者は、タダで手軽に観られる従来の地上波を観ているのである。紅白の対抗裏番組として、爺ちゃん婆ちゃんを含め絶大なる知名度を持つ客寄せパンダ「元横綱」を引っ張ってきた、脱税会社興行の中継のみは、まま妥当な策だとは思うが、三つも並行して放送されると、元プロレス者のあたしでさえウンザリした。思わずかつての「コント55号・裏番組をぶっとばせ」が頭に浮かぶ。当時、動かざること山のごとしの紅白に、なりふり構わず「野球拳」で対抗した、あの民放のケナゲさは、どこへ行ってしまったんだ。

 格闘技には永いつきあいのある、あたしでさえ食傷したというのに、どうしてああいう編成がまかり通ってしまったのか。ちゃんと真面目に考えているのか、と問いたい。だいたいが、テレビ局というのは時間を売っているのである。一見華やかに見え、若者などの就職先として人気のようだが、その実、一日は24時間しかない。ここに番組を嵌め込んで、それが一日のすべての商品なのである。地上波通常放送に限って言えば、要するに一局の商品のパイは増えようが無いのだ。となると、人気番組を工夫して制作し高視聴率を得て、スポンサーの広告料を高くとれるようにして収益を上げてゆくしかないのに、なぜ、ああいうことがまかり通るのであろうかね。これ、多チャンネル化にともなう民放の感性の麻痺なのか。格闘技に興味もなく、紅白も観る習慣のない人は、番組を観ずに「人生ゲーム」や「レンタルビデオの映画」や「テレビゲーム」に興じてしまうではないか。あの三番組、ナマじゃなくても日にちを変えて放送していれば、格闘技マニヤは各局の番組をすべて観ることになり、確実に何%かの視聴者を各局が確保できるはずなのである。それをみすみす手放すような編成。これは金を出しているスポンサーに対する冒涜とも言える。わからん。

 ぼやきながらも、元プロレス者だから、三つの格闘技番組をチャンネルを回しつつ(テレビ黎明期と同じくして生を受けたあたしなんざの世代は、いまだにチャンネルは「回す」か「捻る」と表現しないとしっくり来ない)、観た。落ち着かないことこのうえない。当然、CMになると、気になる他局の試合に回すことになる。スポンサーは、ここまで考えて金を出したか? 格闘技ファンのおおかたは、そういう観かたをしたことが容易に想像できる。結局、誰もほとんどCMは観ていなかったと思うんだがいかがであろう。いったいどういう商売をやっていることやら。

 折角なんで、試合の感想も書いておくか。目玉の「元横綱」デビュー戦だが、全くの「予想を裏切らない」展開で、あっけなく幕を閉じた。ま、あれが「格闘技」が建前の世界といえばそうなんだが、今回のマッチメークは多分に「プロレス臭」が入らざるを得なかったところに、主催者の苦々しさが垣間見えた。プロレスの世界ではさんざんやり尽くされ、顰蹙を買ってきたことなので免疫が十分にできているが、格闘技だと、まだそうはいかない。非常にリスキーな選択であり、それだけにあたしも興味を持って観たというわけだ。相手を「サップ」に決めた時点で、注目度は抜群に上がったが、同時にプロレス臭も増幅される。だって、「芸」と「アタマ」を備えている選手が相手じゃないと、シロートの無茶な初試合を、ちゃんとした興行として成立させるのは難しいからだ。その「技術」を備えている選手だからサップが選ばれたのだと思うが、いかんせん今の彼はお茶の間の人気が「ありすぎ」る。主催者としては「チベット奥地の未知なる強豪」なんてのが一番良かったんだが、興行戦争になったこともあり、あえて一か八か、最もハイリスク・ハイリターンの道を選んだ。「野獣」がウリのサップも、あの試合では「バラエテイ」モードの脳味噌を使ってましたな。「あれ、当たっちゃったけど、どうしょうかなあ…イッキに行っちゃって怒られないかなあ」という目をしながら殴ってましたな。若干の躊躇は見られたけれど、結局プロレス臭を最小限に抑えて終えたのは、さすが、サップと言うしかないか。

 あの興行でいちばん印象に残ったのが、メイン前の国歌斉唱。スティビー・ワンダーのアメリカ国歌のブルースハープ独奏だ。良かったけれど、長かったね〜。引っ張る引っ張る。もはやコンサートのノリである。試合への流れなどお構いなし。主催者は打合せなどをしなかったのか? それともすぐ後の試合の、予想される残無い結末に対する、せめてものお詫びの現われだったのか。