泣きっ面にハト

カラスの急増で、樹木や公園のねぐらを追われたハトが、比較的安全な人家の庭やマンションのベランダに疎開をはじめている。うっかりしているうちに我がベランダにもやってきて営巣・産卵を終えてしまった。エイ!と廃棄してしまうのが正解なのだが、家人の意見につい情けが入ってしまったのが運のツキ。ここはやっぱりクールに撃退しとくべきですな。

鳩の夫婦がエアコン室外機排気口前に営巣・産卵!

 いや暑いね。先日東京では40℃近い最高気温だったようだが、あたしの経験から言うと、東京の39℃ナンボより、大阪の36℃のほうが絶対に暑い。大阪湾の方から何とも言えないゲル状の不快感がドブの香りとともに皮膚にへばりついてくる。東京では若気薄給の10年間をエアコン無しで暮らし通した。こんなことは大阪ではちょっと無理で、まず体調を崩すか気が狂うに違いない。新聞を読むと手に持った紙面左右に汗の「手形」がつく。紙面下部には顎から落ちた汗玉のあとが点々と増えてゆく。黒く滲んで読めやしない。とくに夜の不快感つったら地獄である。まあ貧乏は忍耐だと思うが、その忍耐で太刀打ちできないような都市を存在させている行政は、エアコンを設置せず我慢している貧乏人に「炎暑手当」を出してもいいんではないか。もしくは、役所でビール券を配るとか。

 ついに27日ヨル、エアコンをオンにした。ひとたびオンにしてしまうと、もはや再びの我慢はできない。電気代がグンと跳ね上がるクーラーのスイッチを入れるのを我慢し先送りし続けるのは、貧乏人にとっては毎夏の恒例歳時記のようなものだが、今年に限ってはもはや我慢の限界をはるかに超えていたのである。網戸とユアサ製首振三段風速タイマ付きでなんと980円の扇風機2台フル稼働で、街中のブルジョアや高級車が吐きだす熱排気を皮膚にしみこませつつじっと耐え忍んでいたのであるが。この度、あたしのブチ切れにより、ついに耐え難きを耐え忍び難きを忍び…というはこびに相成った。先の敗戦では、そのキッカケは広島・長崎に投下された原子爆弾であったが、わが家の場合は、あたしの贔屓タイガースの連日の惨敗であった。勝ってりゃ鼻歌まじりに、「さあ!水でも被って寝るか、と」で、済んでいたものを。もう!

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▲室外機の熱風直撃位置で営巣中(7.21)

 当サイト掲示板でそのつど報告してきたのであるが、この猛暑にかかわらず、ここまでエアコンオンが引き延ばされたのは、実はベランダ室外機排気口の真ん前に営巣・産卵したハトの夫婦のおかげなのであった。今年近隣で急激に増えたカラスに追われ、やむなくの場所決定であったと推測される。エアコン使用の熱風直撃で焼雛になってしまう場所なのだが、けなげに交代で通い抱卵する姿に、あたし以外の家族の情が移った。ハトがヒトのハートを掴み一本勝ち。だいたいあたしはハトは姿が好かんのである。それにもはや害鳥なのである。香港みたいに食用にする習慣がありゃあ、こんなに増えないものを。いざここに営巣されると今夏のクーラー使用はままならず、今後本格化する塵芥溜めの街・大阪の酷暑に耐えきれないと力説したのであるが、ハトにハートを掴まれた家族の意志は動かず。最初は卵一個のみであったのだが、温かいバカ人間どものご好意に甘え、二個目も産みやがった。

もはや害鳥とは言えど命あるもの、困ったもんだ。

 ええいままよ、と、そのままにしておいたのだが、雛が孵るころになると、暑さもウナギ登りに。「可愛い」と言って排除に反対していたバカ人間どもも、自分のほうが可愛くなってきたようで、「暑い暑い」と訴えだした。それ見たことか。実はあたしの仕事部屋には別系統の小さなエアコンがあるのだが、とても全戸内を冷房する能力がない。一蓮托生でもあるので、こちらのクーラーも使用しないと決め、あたしも我慢し続けていたのだ。しかして、連日の猛暑にトラの連敗で「もはやこれまで」。ハト助かってヒトが死ぬのはご免なので、ダンボール箱で仮設巣箱を作り、室外機から少し離したところに雛を移す試みを敢行することにした。

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▲トレイに移して夜間のみ移動。これでクーラーがオンに(7.24)

 あいかわらず家族は不満げに、「人非人」と訴えてくるが、連日の猛暑に以前ほど非難の鉾先の鋭さはない。先日の夜、ついに「代執行」を強行しエアコンをオンにしたというわけである。あわよくばこの仮巣箱を親鳩も認知してくれれば、と期待したのだが、餌を与えに来たバカ親、元の巣の真上1mの位置にあるこの箱に気づかない。雛はピーピー鳴いて呼んでいるのに、首を傾げるのみである。こちらが餌を与えて、養育を請け負う羽目になるのはなおさら拙いので、トレイに載せた雛を昼間のみ元の場所に戻すことにした。これでは昼間はクーラーが使えないものの、なんとか夜のみ快適に眠れるようにはなった。

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▲たまらず仮設住宅に移した。ヒナンの視線があたしに(7.30)

 そしてまさに今、夜が明けてきたところであるが、台風の強い風に煽られながら、親バトが朝食を与えに戻ってきている。あたしは大汗をかきながら、なんとか巣箱内の雛の存在に気づいてくれい、と、カーテンの隙間から様子を窺いつつ願っているのだが、あいかわらずバカ鳩は首を傾げつつ引き返してゆく。失敗するとまた昼間は扇風機のみだ。巣箱の扉を全開にしたり、いろいろ試しているのだが、いまだ気づかない。このまま雛が巣立ちするまで冷房無しの日々が続くことになるのか…(電気代が助かるとは言うものの)。この暑苦しい日々の顛末は「偏屈酒場」でそのつど報告することにします。